内山 勢(昭和58年経済部経済学科卒)

【略歴】うちやま・つよし 毎日新聞社に入社し、「サンデー毎日」、大阪本社社会部、東京経済部記者、大学生が企画・取材・執筆する毎日新聞『キャンパる』編集長を経て、現在、教育事業室委員として、大学を担当。現在、国立大学1校の客員教授、国立と私立各1校の非常勤講師も務める。

寄稿

コロナ禍、大学オンライン授業奮戦記

 会社の仕事の延長で、2020年度は3つの大学で授業を受け持つことになり、昨年の1月ごろからパワーポイントでの仕込みを始めた。3つの大学とは、東京駅から1時間ほどの、地方国立大学S大とU大(後期のみ)、それから首都圏の私立大学K大である。4月7日に第1回目の緊急事態宣言が発せられた。私はその前日、手続きでK大学を訪れていた。翌日K大学から「大学の入構を禁止する。すべての授業はオンラインで行う」とメールが来た。

 『えー!』という感じだった。緊急事態宣言が発せられても対面授業は行われると安易に考えていたが、急にオンライン授業の準備をしなければならなくなった。オンライン授業の案内はこういうようなものだった。「Zoomやtemasなどを利用するか、パワーポイントの動画機能等で、オンデマンド方式かオンタイム方式でお願いします。その二つを組み合わせたハイブリッド方式でも可能です」。

 正直、ズームは一眼レフのズーム機能しか知らなかった。『ズーム?一眼レフを使ってオンライン授業をするのか?』『オンライン機能なんてもってない。大学はスタジオを用意してくれないのか?』『チームス(正式にはチームズと濁るらしい)?何それ?』。4月7日の段階ではそのレベルの知識、というかオンラインに関する知識はまったくないに等しかった。どうやってオンライン授業をやる-この時のプレッシャーは久しぶりの緊迫感だった。4月中旬からのオンライン授業に間に合うのか……。

 幸い、パワーポイントは対面授業でも使いこなしていたので、これをオンラインにのせればいいのだな、ぐらいは漠然とわかった。ネットで調べると、オンラインにするには、ズームのソフトをダウンロードして、それにコンテンツ(パワーポイントなど)を「共有」としてアップする。そうすると参加者全員がそのコンテンツを見ることができる、ところまでどうにか理解できた。そこで一つの疑問が生じた。「自分の映像や音声をどうするのか?」。

 あわてて、近くの家電量販店に駆けつけたが後の祭り。オンラインに必要なヘッドセット、マイク、ヘッドホンはすべて売り切れていた。家に戻りAmazonをのぞいたが、そこも「入荷まで1カ月」などの羅列。あー、おれは乗り遅れている、と焦った。Amazonを何度も検索してヘッドセットやオンライン用カメラをどうやら入手することができた。マイクもいくつかの量販店を回って仕込んだ。ヘッドセットがあればマイクはいらないが、音がいいのでは?と4500円程度のミニマイクを購入した。後で分かったのだが、会社から支給されているパナソニックのノートパソコン「レッツノート」には、カメラやマイクも常備されていた。イヤホンさえあれば(なくてもスピーカーで聞ける)、オンラインを始めることができたのだ。パソコンには習熟していると思っていたが、どうやらド素人レベルだったようだ。

 刻々と迫るオンライン授業。どういうスタイルで行うか、が次の大きな課題だった。どこの大学も「学生の通信量(料)の負担を考慮して、オンタイム(ライブ)授業はなるべく避けること」とのお達しだった。事前に収録して都合のいい時間に視聴してもらうオンデマンド方式を推奨していた。いろいろ試行錯誤して私が採ったのは、オンデマンド方式+オンタイム方式+リアクションペーパー提出。ズームでひとり語りで収録し、YouTubeに学生だけの「限定公開」(これもこの時に覚えた)でアップしてオンデマンド方式で事前に視聴してもらう。授業時間当日はオンタイム方式で30分程度のライブ授業を行う。授業後、その日のうちに授業の感想をつづったリアクションペーパーを提出してもらう、だった。これだと通信量(料)の負担も軽いし、授業に参加した気分にもなれると判断した。一応学生たちの意見を聞き賛同を得たのでダブル方式を実施した。

 オンデマンドでは課題も出し、オンタイム授業でその課題について議論するということも行った。通信量の負担は軽いが、課題対応の負担は重かったかもしれない。「どの授業も課題が増えた」というのはどこの大学のアンケートでも学生たちは感じていた。私が実施した方式は、「反転方式」というのだそうだ。教育のプロではないので、そんな方式があるのかと感心したが、授業前に課題を出し、授業でその課題について議論を行う方式で、習熟度が高いといわれている。私は知らないでそのような方式を採ったようだ。

 オンライン授業1年を体験してそのメリットとデメリットを感じた。いつでもどこでも学べるのがオンライン授業のいいところだが、学生同士が対面で議論することができないので、授業としての一体感がない。画面上でも議論はできるか、対面ほど深まらないと感じる。グループワークでもオンラインでは連帯感が高まらない。今年4月以降、対面(面接)授業に切り替える大学が増えるだろうが、オンライン方式をすべて捨て去るのではなく、補習とか授業プラスでの使い方は十分機能として使える。「いつでも、どこでも」で言うと、遠隔地同士の学生を結びつけることも可能だ。オンラインの可能生を今後も追求して、対面授業でも生かしていきたいと思う。

(会報12号掲載「寄稿」より)

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