中島 康予(昭和58年法学部法律学科卒)

【略歴】なかじま・やすよ 中央大学法学部教授。中大大学院修士課程修了後、助手、助教授を経て2000年に教授。副学長(2017~18年)、法学部長(13年~17年)などを歴任。専門は現代政治学。著書『暴力・国家・ジェンダー』など。

寄稿

学生と同僚・同業者に助けられた1年

 フランスで地方選挙が実施されるのに合わせ、約3週間の調査計画を立て、出発を目前にしていた1年前。フランスからの帰国者が新型コロナに感染したとの報に接し、フランス行きを見送ることを即決しました。医療制度が異なり、母語でコミュニケーションをとることができない場所で感染することや、移動に制限がかかることなどに不安を覚えたからです。「9.11」にフランスに滞在していたときのことが頭をよぎりました。

 新年度の準備に頭を切りかえ、情報収集を開始。東京大学をはじめ、いくつかの大学はオンライン授業を含む対策の検討で先行しており、その内容の一部が、ホーページ上で閲覧できる状態にありました。以後、先行する大学や同業者が提供するオープン・リソースのお世話になり、その状況は今もあまり変わっていません。

 大学からWebexのアカウントが提供されることになり、同僚教員から、Webexを一緒につかってみよう、と声をかけてもらい学習開始。別の同僚は、ホームビデオで作成した授業コンテンツをサンプルとしてシェアしてくれました。ただ、私が担当する講義科目では抽象度の高い理論を扱うので、この方法では文字情報が不足することは明らかでした。そこで、パワーポイントのスライドにナレーションをつけてビデオに変換して、Google driveにアップロードし、manaba(クラウド型の教育支援サービス)上でビデオのリンク情報を学生に開示。スライドは配布資料にしてmanabaから学生がダウンロードする手法を選びました。毎週、ビデオを視聴した上で解答するドリルを出題し、正答・解説をフィードバックする学修のサイクルをつくることにしました。この方法は、コンテンツ作成に膨大な作業を要するわりに、低い評価がなされることもあります。が、リアルタイム授業で音声が途切れるなど、学生の通信環境による格差を心配することなく、安定的に授業を実施するという点では優れていると思います。アップロードするファイルを間違えたときには、学生から、ファイルが間違っていると非常に礼儀正しい調子のメールが届くなど、学生に助けられました。

 秋学期には演習を対面方式で実施するかどうか、教員と学生の選択に委ねられることになりました。学生に意向や心配なことを遠慮なく知らせてほしい、と個別にメールを送ったところ、返ってきたのは、対面への慎重な声でした。学生自身の疾患、実家で生活している、高齢者と同居あるいは同居予定、長時間の通学時間が心配。対面を望む声がゼロで、これを押し切って対面メインに移行することを決断できませんでした。このあたり、別の問いかけをすれば、別の答えが返ってきたかもしれません。1年生対象の導入演習では1万字程度の論文を執筆することが最終目標。デジタル化されていない論文などは私が図書館でコピーをとり、PDFファイルにして学生に送ったりしました。1年間の成果を1冊の論文集にまとめ、学生にこれから送ります。キャンパスにほとんど足を踏み入れることができなかった1年生が、中央大学の学生として1年間を過ごしてきた、その時間を目に見える形にして手元に残してもらいたいと願っています。

(会報12号掲載「寄稿」より)

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